金融 IT

2025.11.13

全社員がAIで挑む!SBI流AI戦略と金融イノベーションの最前線

全社員がAIで挑む!SBI流AI戦略と金融イノベーションの最前線

金融AI領域の先頭を走るSBI。ビッグデータ、生成AI、そしてAIエージェント。

「AI・デジタル戦略推進部」新設の経緯は?どのような方向を目指していくのか?SBIホールディングスでこの領域を牽引し、金融データ活用推進協会の理事も務める佐藤グループ長に聞きました。

[SBIホールディングス株式会社 AI・デジタル戦略推進部 戦略企画グループ長 兼 データサイエンスグループ長 佐藤 市雄 氏]

学生時代に学んだ「データ+金融」を社会人になっても活かす

――SBI入社の経緯、その後の職歴などを教えて下さい。

大学は文系だったが、ゼミではAIを活用した企業評価を学び、「データ+金融」の分野で活躍したいと考えて就職活動を行いました。就職活動でも投資銀行、ベンチャーキャピタル、アセットマネジメントなどを志望していたが、証券からネット銀行、ベンチャーキャピタルまで何でも揃う総合金融グループであるSBIに魅力を感じ、2007年に入社しました。金融機関への新卒入社が多かった年で、今と同じ売り手市場。リーマンショック前だったので初任給も高かったですね。

配属先はCRM(Customer Relationship Management)を中心としたネットビジネスを行っているグループ子会社。今では当たり前の、証券取引でポイントがもらえるシステムを業界で初めて構築し、入社2年目に早くもその会社の代表になりました。2009年には、リアルタイムでポイント交換が可能となる仕組みを日本・米国Yahoo!と一緒に開発。これは現在のFintechのベースにもなっています。

しかし、CRMやポイントサービスなどで取り扱うデータ量は金融データ全体の1%程度に過ぎません。全ての金融データの取り扱いを可能とする必要があると考え、2012年にホールディングスに「ビッグデータ」専任の組織を立ち上げました。これは私にとって大きな転機であり、新たな挑戦の始まりでした。

――新組織「AI・デジタル戦略推進部」の立ち上げ経緯を教えて下さい。

2012年にビッグデータの組織を立ち上げたものの、当時は「ビッグデータ」という言葉自体が世間に浸透しておらず、しばらくは社内でも機械学習ベースのAI活用が中心でした。深層学習や生成AIの登場によってAI分野が急速に進化し、私にとって次の転機となったのが2023年で、7月に最新の生成AIに特化した「SBI生成AI室」を新設しました。

一方で、当時社内ではRPA専任部署や案件ごとにバラバラにAI開発を進める動きが乱立しており、全社視点での統合が課題になっていました。そこでデータ分析から生成AIまでを一体運営する組織として、2025年7月1日付で「AI・デジタル戦略推進部」を新設しました。ゴールデンウィークから準備を開始し、わずか2か月で立ち上げる強行軍でしたが、経営陣から「いますぐ実行し、直ちに成果を出してほしい」という強いメッセージが後押ししてくれました。その結果、スピード感を持って新組織を立ち上げることができ、現在は80名超が所属する部署に成長しています。

3グループで構成される「AI・デジタル戦略推進部」

――「AI・デジタル戦略推進部」の役割などを教えて下さい。

AI・デジタル戦略推進部は「戦略企画グループ」「デジタル戦略推進グループ」「データサイエンスグループ」の3グループからなる組織です。ポイントは、部内に企画部門である戦略企画グループを置いたことです。人材育成や社内ガバナンスを含めて全社レベルの改革を担う部署で、第1線(事業部門)にも第2線(リスク管理部門)にも横串を刺し、グループ全体がどちらを向いて走っているかを明確に示す役割を果たします。

デジタル戦略推進グループは各事業の業務改革やデジタル施策を現場に入り込んで推進します。データサイエンスグループはデータサイエンティストによる先端的なAIモデルや生成AI、AIエージェントの開発・活用を担う専門集団です。なお、当部の最初のミッションは新卒社員向けの研修で、AIアプリを作れるAIネイティブ人材の育成に早速着手しました。

――最近注目されている「AIエージェント」について、どのような方針ですか?

AIエージェントとは、機械学習モデルと生成AI、RPA、OCRなど複数の自動化ソリューションを統合したものです。当社ではこのAIエージェントの活用領域を徹底的に追求し、ソリューションとして社内外に提示していくことが新たなミッションだと認識しています。ぜひ今後の取り組みに注目していてください。

AIエージェント時代の社員向けの2つのメッセージ

――AIエージェント時代に会社をどのような方向にもっていきたいとお考えですか?

私はAIエージェント時代に向けて会社を変革するという強い使命感を持っています。そのために、全社に向けて次の2つのメッセージを打ち出しました。

「全社員がAIを理解し、チームでAIを活用できるようにすること」

これまでのAIプロジェクトは、データサイエンティストがデータやアルゴリズムを用意し、ごく一部の専門家だけが有望なプロジェクトを見つけて実行する形でした。しかしこれからは、専門家の助言を受けつつも全社員がAIを理解し、チームとしてあらゆる業務でAI活用プロジェクトを推進していきます。(多少の優先順位付けはしますが、対象は全業務です。)

「業務効率化ではなく、ビジネスモデル変革を目指すこと」

これまでのように予測モデルで業務を効率化するだけでなく、AIを軸にビジネスプロセスそのものを見直し、ビジネスモデルの大胆な変革に挑戦していきます。

――AI領域において、SBIは他社と何が違うでしょうか。

リスクはゼロにはなりませんが、リターンがリスクを上回ると判断したらまずやってみる──そんな攻めの姿勢が当社の特徴です。リスクを抑えるためには最先端のテクノロジーを徹底的に活用します。例えば生成AIで問題視される「ハルシネーション(幻覚)」への対策として、RAG※1やFunction Calling※2、ガードレール※3といった先端技術もいち早く取り入れて積極的に解決を図りました。このようにリスクに挑む攻めのAI戦略こそが、当社の強みであり他社との違いだと自負しています。

※1 RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)
大規模言語モデル(LLM)が外部のデータベースや文書を検索して情報を収集し、その情報を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術。
※2 Function Calling
ChatGPTが自然言語の質問に応じて、定義済の外部関数を呼び出して実行する機能。開発者はChatGPTを自社のシステムやサービスと統合することが容易になる。
※3 ガードレール
AIが不適切な内容を出力したり、リスクに伴う動作をしないように、事前に設定された制御機能や仕組み全般。

――基本的には内製開発でしょうか? 外部リソースも活用しますか?

一部には出資先のスタートアップ企業などもありますが、基本方針は内製開発です。投資先の技術や事業内容を見極めるための自前の目利き力を養うことが重要だと考えています。その意味でも、人材やリソースはできる限り内製化するのが原則です。自分たちで作り、自分たちで運用できないものをお客さまに提供するのは難しいですから。生成AIについても、表面的な仕様だけでなく中身まで理解した上で取り組むことが大切だと感じています。

AIの全社浸透に必要な「環境づくり」と「場づくり」

――AIが社内に浸透してきた理由は何でしょうか?

当社ではトップダウンとボトムアップのサンドイッチ戦略を採りました。まず、役員や部門長クラスの管理職にはAI活用を半ば強制しました。役員会議や決算報告の場ではAIを使って資料作成・発信をしてもらっています。一方、新卒社員には研修でAIを徹底的に学んでもらっています。経営層も若手社員もAIを使っている状況を作り出すことで、中堅社員も「自分もやらないと」と思うようになります。この上下から挟み撃ちにする戦略が功を奏し、社内へのAI浸透が一気に進みました。

――皆がAIを活用するようになると、自然発生的に新しいビジネスも生まれてくるのでしょうか?

そう思います。ただし、それを促すには「環境づくり」と「場づくり」が不可欠です。まず、社員が自由にAIを使える環境を整備しました。Microsoft Copilotの社内展開、ChatGPT Enterpriseの導入、Amazon Bedrockの活用などに加え、Geminiをはじめ複数のAIモデルを用途に応じて使い分けられるようにし、一人ひとりが最適なツールを選べる環境を用意しています。

次に、社内全体で知見を共有する場も重要です。AIデジタルポータルという社内サイトに活用事例を投稿し合ったり、AIアプリやAIエージェントのひな形(テンプレート)を共有して、誰でも好きなものを使えるようにしたりしています。社内SNSでも日々ナレッジを発信しています。また、新卒・若手から中堅、役員に至るまで対象層を広げ、ほぼ毎週社内勉強会を開催して知識を重層的に蓄積・展開しています。

――AI活用のためには一定の金融ドメイン知識も必要だと思いますが。

現場で当事者意識とドメイン知識を持った人が主導することが大切であり、私たちの組織はまさにその支援役に徹しています。チームの誰もがAIを扱える体制を整えていますが、実際にプロジェクトの主体となるのは業務知識を持つ現場側の人間です。我々はそこをサポートするのが役目です。「AI活用には賛成だが進め方が分からない」という社員もいますが、手順を示せば理解して自発的に取り組んでくれます。

――SBIはデータ基盤の構築にも早くから取り組んでいましたね。

はい。クラウド化にもいち早く踏み切り、データの蓄積もかなり進めてきましたし、既に複数のプロジェクトが走っていました。部分最適ではなく全体を俯瞰すると、金融という業態はシステムとデータで動いており、そのうち7~9割は自動化できると感じています。SBIでは常に「先頭を切って先端を行く」という決断をしてきました。2012年にビッグデータ対応組織を立ち上げた頃から、そうした素地は築かれていたのかもしれません。

――現状、リテール向けフロント業務でのAI活用が多い一方、コーポレート部門などバックオフィスでの事例は少ない印象です。

確かに現時点ではフロント業務中心ですが、AIエージェントの進化によってバックオフィスなどの業務も大幅に効率化される見込みがあります。膨大なドキュメントを高速処理できるAIエージェントも登場しており、リスク管理や内部監査部門などでも有効に機能するソリューションがこれから出てきそうです。

NFTに見る金融にとどまらない顧客体験の変化

――今後10年で業界はどう変わるとお考えですか?金融業界の未来像を教えてください。

おそらく既存の金融の枠組みは大きく姿を変えるでしょう。伝統的な金融に、Web3やメディア、地方、グローバルといった要素が加わり、金融ビジネスのあり方自体が劇的に様変わりしていくのではないかと考えています。実際、SBIは2025年大阪・関西万博でデジタル資産の一種であるNFT(ノンファンジブルトークン)を発行しています。NFTは通常数千単位で発行するものですが、当社では既に800万枚という桁違いの数を発行しました。メディアや海外、地方との連携を通じて新たな顧客体験を生み出そうとしており、既存の金融ビジネスの枠に収まることのない取り組みを模索していきます。

――最後に、SBIに今後ぜひ来てほしい人材像についてお聞かせください。

そうですね、自分自身や業界などあらゆる殻を破りたい人に来てほしいです。現状の枠組みにとらわれず、新しい価値を創造したいという意欲を持った人ですね。金融分野の出身である必要はまったくありません。ぜひ異業種からもどんどん挑戦してきてほしい。一緒に既存の枠組みを打ち破っていける、多様な人材と仕事をしたいと考えています。

(聞き手:グッドウェイ 取締役副社長 渡邊 素行)

佐藤市雄氏 経歴

2007年SBIホールディングスに新卒入社、2008年SBIポイントユニオン(現SBIポイント)代表取締役就任。 2012年グループ横断データ活用のCoE組織「社長室ビッグデータ担当」を設立し、リーダーに就任。2022年より一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)の理事兼企画出版委員長を務める。

2023年に生成AI専門組織「SBI生成AI室」を設立し、室長に就任。 2025年7月よりAI・デジタル戦略推進部戦略企画グループ長兼 データサイエンスグループ長。SBIグループのInsurtechやブロックチェーンの子会社役員を兼務。