2019.11.05
【東海東京調査センター】投信投資に「行動ファイナンス」と「テクニカル分析」を取り入れよう~東海東京調査センター 投資調査部 主任調査役 シニアストラテジスト 中村貴司さんに聞く~(ネット証券5社共同プロジェクト)
■投資信託での資産形成は、ファンダメンタルズに基づく判断だけでは不十分
最初に、私自身の苦い経験をお話しましょう。
そして、さらに大切なことは、時間分散をする、焦って買おうとしない、高値圏かどうかを見極めるといったさまざまな事柄を、単に頭で理解するだけでなく、実際に行動に移すことです。そこで重要となってくるのが、投資家のメンタルのコントロールであったり、実際に投資行動へと促す「行動コーチング」なのです。日本にはまだほとんど入ってきていませんが、米国ではこうした「投資行動のコーチング」が重要視されるようになってきています。
ここで、「ファンダメンタルズ分析」について、改めてその理論を簡単に説明しておきましょう。ファンダメンタルズ分析とは、マクロの経済動向や企業の業績動向などを予測した上で、株価の理論価値(=ファンダメンタルズ価値)を計算して投資判断を行なう手法のことです。
ファンダメンタルズ分析がすべてであれば、株価は常にフェアバリューで推移するはずです。仮に、フェアバリューを超えて上昇した場合には速やかに元の水準に回帰するし、大幅に下落した場合も同様に元の水準に収れんしていくと考えられます。なぜなら、ファンダメンタルズ分析の考え方では市場は常に効率的で、投資家は常に合理的とされるからです。
その回答の一つと言えるのが、ファイナンス分野に心理学の概念を取り入れた「行動ファイナンス理論」です。実は、行動ファイナンス理論は、実際の市場での現実と理論のギャップを埋めるために、伝統的なファンダメンタルズ分析とは対立する概念として登場しました。行動ファイナンス理論では、市場は非効率と説明されています。また株価は、投資家の感情やバイアス(先入観や根拠のない思い込み)に左右され、合理的とは言えない意思決定によって、適正価格を逸脱したモメンタムが起きたりバブルが生じるとされているのです。
■行動ファイナンスから見た、投資家にありがちな「バイアス」の例
では、市場や株価に影響を与える投資家の「バイアス」には、どのようなものがあるでしょうか。いくつか具体的に紹介します。
まずは「横並び行動」です。たとえば、「みんなが買っているから、自分も遅れずに同じものを買っておこう」といった投資行動のことです。多くの投資家がこの「横並び行動」を取ると、トレンドが形成されたり、さらにはバブルの形成やバブル崩壊につながる可能性があります。
また、「自信過剰」も行動ファイナンスにおける代表的なバイアスです。投資で上手く利益が得られると自分を過信して、ポートフォリオを考えずに過剰なリスクを取ってしまうような投資行動です。具体的な例としては、市場の暴落で損をした人は、しばらく暴落に対して極端に弱気になり、リスク・リターンに基づく投資ができなくなったり、逆に暴騰で儲けた人はその後も暴騰相場に極端に強気な行動を取るといったことです。
さらに、もう一つ挙げておきましょう。老後資金と教育資金と余暇資金、あるいはコアとサテライトのように、資金を分けて管理している人が陥りやすいバイアスが「メンタルアカウント(心の会計)」です。資金を分けていることを理由に、一部についてだけはハイリスク投資を許容しますが、実はトータルで見てもリスクを取り過ぎてしまっているという投資行動です。
冒頭で触れたようなITバブルやバブル崩壊の背景にも、こうしたバイアスによる投資行動が関わっています。行動ファイナンス理論を念頭に置いた株価推移は、ファンダメンタルズ分析による株価推移のイメージとは異なり、フェアバリューを超えて上昇したり下落したときに、さらにその方向に加速して乖離する動きを見せることがあるのです。
そもそも、テクニカル分析は、株価などのデータを分析して相場の先行きなどを予測する手法です。株価形成は、人の行動や価値観、心理学などを反映したすべての市場参加者の集合的な結果であるという考え方がベースになるので、ファンダメンタルズ分析では対応できない、市場の非効率な動きや投資家の不合理な行動についても一定の対応が可能になると考えられています。また最近では、AIやフィンテック、データサイエンスといった新しい分野との融合も進んでいます。
テクニカル分析には、移動平均乖離率、ゴールデンクロス・デッドクロス、ボリンジャーバンド、RSI、騰落レシオ、サイコロジカルライン、フィボナッチ・リトレースメントなどさまざまなものがありますが、ここではわかりやすい例として移動平均乖離率の活用法を紹介しましょう。
移動平均乖離率は、ご存じのとおり、実際の値動きと移動平均線との乖離から投資タイミングを計る指標で、中長期が前提であれば、移動平均線は200日(=約半年)など長めのものを使用します。たとえば、日経平均であれば20~30%以上なら買われ過ぎ、逆に-20~-30%を下回れば売られ過ぎと言われています。これを頭に入れておくだけでも、上昇時の高値づかみや暴落時の狼狽売りのリスクを減らすことが可能になります。
たとえば、市場が大きく下落して怖いから持っている投資信託をすべて売りたいという顧客がいたときに、行動コーチングでは「リーマン・ショックのときはどんな行動を取りましたか? 当時と比べて恐怖の度合いはどうですか?」などと対話をしていきます。こうした対話を通じて、FPは顧客にバイアスに影響された行動を取っていないか気づかせて、顧客が合理的な投資行動ができるように促していくのです。
その際には、先ほど説明した移動平均乖離率などのテクニカル分析も役立ちます。「歴史的に見ても、今は非常に割安な水準で売られ過ぎの状態です。ここは売ってしまうのではなく怖くても持ち切りましょう」とデータを示すことで、市場変動の波に振らされずに冷静な投資行動を引き出すアドバイスが可能になります。
コーチング自体は以前からありましたが、臨床心理学も取り入れた投資分野での行動コーチングというのは、ここ数年の新しいトレンドです。金融業界で顧客本位の対応が求められる中、今後は一般的になっていくと考えられます。ただし、米国に比べると日本ではまだまだ知られているとは言えません。ようやく金融庁の勉強会などで取り上げられるようになったところで、これから投資のプロが取り入れて、その後、個人の投資家にも広く知られるようになる流れではないでしょうか。
最後に、投資信託を積立で購入している人に向けて、少しアドバイスをしたいと思います。積立投資の場合、緩やかな下落相場であれば冷静に対処できる人がほとんどです。つまり、慌てて売らずに、淡々と積立を続けていくことができます。ただ、5年、10年という長いスパンの中では、リーマン・ショックのような大きな変動の波も訪れます。そうなると、積み立てて来た資産が20~30%以上も下落する場合があり、「本当に戻るのか」「怖くてこれ以上持っていられない」と、積立を断念して売却してしまう人が少なくありません。
しかし、そういうときこそ今回お話しした「行動ファイナンスにおけるバイアス」と「中長期のテクニカル指標」を思い出して、冷静な投資行動を取ってほしいと思います。また、積み立てている資産が大きく値上がりしたときには、「積立だからほったらかしにしていい」という思い込み、決めつけるのではなく、やはりテクニカル指標なども参考に、高くなっている資産を他の資産に振り替えるといったリバランスを検討することも重要です。そうすれば、仮にその後大きく下落することがあっても、精神的にも余裕を持つことができます。
せっかく投資信託で中長期の資産形成をしようとしているのに、投資を続けるべきタイミングで投げ売りしてしまったり、逆に高値圏にあるときにも「何もしなくていい」と決めつけてしまったりを繰り返していては、資産形成はなかなか進みません。ぜひ「行動ファイナンス」と「テクニカル指標」を意識した行動を取って、中長期でのパフォーマンスの向上に結び付けてほしいと願っています。
東海東京調査センター シニアストラテジスト
(オリジナル記事掲載元:ネット証券5社共同プログラム「資産倍増プロジェクト」)
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